研修の概要及び目的
公園には、人間目線で言えばレクリエーションや憩いの場、環境保全などの役割がありますが、公園を利用しているのは我々人間だけではなく、動植物や水辺の小さな生き物など多くの生き物が生活の場として利用しています。特に纏まった自然が少なく、コンクリートやアスファルト等の被覆率が高い都市部では、公園の重要性は顕著です。都立野川公園は約40haの敷地面積をもち、また園内には武蔵野の自然を保全した自然観察園があり、ボランティアとして参加できる生物多様性保全の取り組みも行われています。
本研修では、上記の背景を持つ都立野川公園を散策しながら“生物多様性の保全はなぜ大切なのか”をテーマに、今回は特に昆虫にフォーカスを当てつつ学ぶことを目的に実施しました。
・当日のスケジュール
9:50~10:00 受付
10:00~ 野川の昆虫と生態系観察
12:00~ お昼休憩
12:45~ 自然観察園の昆虫の生活観察
15:00 解散
・研修の様子
・野川周辺:
川辺は湿地帯となっており、川、湿地帯、陸(乾燥帯)と自然な移行帯(エコトーン)がみられる。この連続性を断ってしまうと今まで利用して生きていた生物が死んでしまうため、管理面や安全面の為丸太などで枠を作るような施工を行う必要がある場合でも、一部を空けておくといった管理を考えていくことが保全を考えるうえで大切。
・スズメガの幼虫
眼状紋や針状の突起を持ち鳥やカエルなどの捕食者から身を守っている。成功率は低くとも、産卵数という分母が大きいため十回中一回でも効果が得られれば御の字なのだそう。
・ナラ枯れにより伐採された被害木
一見邪魔そうに見える切り株(園内なので危なくないようきちんと面取りがされている)も、いろいろな虫が住処に利用したり、その虫たちを狙う生き物(←の写真はカナヘビのこども)がいたりと小さな生態系が出来ている。
・自然観察園内
写真左:澄んでいて綺麗ではあるが生物多様性は低く、コイやザリガニがいる池では前者が底に潜む生き物や植物の種を口で泥ごと吸い込んでしまい、後者はハサミで水草を切ってしまうことから環境が荒らされ、他の生物の隠れ家が無くなり、結果このような状態が出来上がってしまう。
写真右:園内で発生した枯れ枝を集積したもので、エコスタックという生き物の住処になる。地面との接地面ではキノコなどの菌類の分解が活発なため、その発酵熱で冬場でも暖かいためタマムシなどの比較的な大きな昆虫やネズミなどの住処になっている。
・園内大芝生付近
最近伐採されたナラ枯れ被害木の木口面では、カシノナガキクイムシの掘道が見られた。(写真上)
また、研修終盤では、参加者が各々思い思いの観察を行い昆虫やキノコなどを発見、それについて中辻講師による説明を賜った。(写真下)
・おわりに
研修会当日は、まだまだ暑い時期で台風の影響の懸念もありましたが、何事もなく無事に研修会を終えることができました。ご協力ありがとうございました。
さて、今回は昆虫にフォーカスを当てた研修会でしたが、講師の中辻さんの話の幅が広く、また参加者の皆さんからも積極的に質問が飛び交い、自分自身聞き逃さないよう必死でメモを取る暇もないくらいとても濃い研修会だったなと思います。いままで見落としがちだった小さな世界、その構造が複雑になればなるほど例え競争に強くない生き物でも生きていける環境が出来るという奥深さ、それ故の生物多様性の広大さを垣間見ることができました。
講師役を引き受けてくださった中辻さん、参加者の皆さん、この度は本当にありがとうございました。また暑い中での野外研修会お疲れ様でした!